森山周一郎さんの訃報が流れた後のSNSを眺めると、やはり多くの人にとっては「刑事コジャック」『紅の豚』のイメージが強いようだ。代表作として異存は無いが、自分のような古くからの洋画劇場ファンにとっては、森山周一郎といえばまず何を置いてもジャン・ギャバンであった。
「日曜洋画劇場」が始まる以前の1965年にNET(現テレ朝)がギャバン主演の映画を『ジャン・ギャバン・シリーズ』として流したことがあり、そのときからのほぼフィックス。当時の森山さんはまだ二十台後半だった。独特のしゃがれた低音は「小2の時からこの声なんですよ」と、とりにはおっしゃっていたが、これはシャレだったかもしれない。
銀髪男優のイメージがついたのか、その後はスペンサー・トレーシーも担当、フランス映画ではリノ・ヴァンチュラも持ち役だったが共演作では格上のギャバンを担当した。
各局で長尺物と呼ばれる洋画番組が増えてくると、TBS「月曜ロードショー」で「日曜」では大塚周夫氏担当だったブロンソンに抜擢(『レッド・サン』から)される。同様にTBS「刑事コジャック」で、それまで「日曜」では大平透氏のフィックスだったテリー・サヴァラスを担当することになり、自身も髪の毛を剃ってキャンペーンに一役かった。変わった所では『グラン・プリ』の三船敏郎は森山さんがアテている。以前音声連のポスター用にとりが描いた森山さんの似顔絵
「コジャック」は「コロンボ」の高評価を受けてか同じ額田やえ子さんが翻訳を担当した。部下や上司がほとんど出てこないコロンボと対称的に署内でのかけあいが魅力で、額田さんは江戸のべらんめえ調でキャラクターを強調した。著書『アテレコあれこれ』では同じ英文のセリフでもコジャックではこう、コロンボではこう訳すという比較が載っていて面白い。例:You gotta be kidding「なめるんじゃねえよ(コジャック)」「ホントですか、それ(コロンボ)」
映画のサヴァラスは(味方であっても)ちょっと性格破綻気味なキャラが多く、これは大平さんがとても合っていたが、テレビのコジャックは森山さんで正解だったと思う。
月末には、こちらもベテラン・瑳川哲朗さんの訃報も飛び込んできた。
森山さんと共通するのは、お二人とも晩年まで顔出しの実写ドラマにこだわられていた点だろうか。これは何も特別なことでなく、声優は本来すべてイコール俳優なのだから当然といえば当然なのだが、実質は専業化する方も多い中で、ひとつの矜持ではあったろう。
瑳川哲朗さんは声のお仕事では、小山田宗徳亡き後のヘンリー・フォンダ、久松保夫亡き後のバート・ランカスターとレナード・ニモイ、山田康雄亡き後のクリント・イーストウッド、若山弦蔵でないショーン・コネリー……等々、失礼を承知で言えば偉大なるリリーフの感があった。
しかし彼らはいずれ劣らぬ大スタアであり、吹替陣もまたそうであった。おいそれと余人が引き継げるものではない。実写でも見せる重厚さや威厳をお声でも表現できる瑳川さんだからこその抜擢や依頼だったと思う。
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