「自分が嫌いな人」を主人公に据えられるかというのは、作家的力量の一つの目安であろうかと思う。ジョブズが好きになれず最初はこの企画に乗り気でなかった旨の話を、作者は複数のインタビューであきらかにしている。
そうした対象との距離感が、しかし、この作品では随所によい意味で現れている。ジョブズの嫌な面をも俯瞰で冷徹に描ききり、その描写は原作を遙かに凌いでいるといっていい。それでもなお人物的魅力が感じられる造型に成功しているのは、ひたすら感心。
病気に苦しむ最終巻はさすがに作者の感情移入も感じられるが、何年もつきあってきたのだから当然かもしれない、そして、そういう抑えた愛情があればこそ、このキャラのジョブズは魅力を持ち得たともいえ、ストイックさを微かに突き破るエモーションの露呈もマンガにはやはり大事だなあと思ったことであった。
ストイックさを突き破る微かなエモーションというのは、マンガのタイプは違うがゆうきまさみ『白暮のクロニクル』最終巻でも感じた。友人達はみんな長編をしっかりと終了させてえらい。
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