でもそれはそれだけ人気があったからでしょう。十代の頃の私は、氏の、ギャグをくどく描かないスマートで突き放したセンスがとても好きでした。家にあった筑摩書房「現代漫画」集がその入口となりました。
「現代漫画」は1970年刊行。各巻の内訳はⅠ期が横山隆一・横山泰三・荻原賢次・加藤芳郎・水木しげる・手塚治虫・小島功・サトウサンペイ・白土三平・園山俊二・東海林さだお・つげ義春・石森章太郎・漫画戦後史Ⅰ・漫画戦後史Ⅱ。
Ⅱ期が杉浦幸雄・清水崑・富永一郎・馬場のぼる・鈴木義司・滝田ゆう・赤塚不二夫・永島慎二・福地泡介・こども漫画傑作集・戦争漫画傑作集・前衛漫画傑作集。選者は鶴見俊輔・佐藤忠男・北杜夫。
うちは揃いじゃなかったけどこの1/3くらいを父親が買っていて、マガジンやサンデーばっかり読んでいた小学生の私もこれで「大人漫画」の世界を知りました。私くらいの世代でそういう人はけっこういたのではないか、と思います。しっくりこない人もいたけどサトウさん以外ではとくに加藤芳郎さんの大ファンになりました。
自分が少年マンガ誌とともに育ってきたのでつい忘れがちなんですけど、70年くらいまでに成人済みの読者にとっては、こうした「大人漫画」のほうがまだまだ当時の漫画のメインストリームという認識だったんですよね(だから手塚さんも漫画集団に入って文芸誌とかにも描きたがった)。
少年誌のフィールドからは68年創刊の「ビッグコミック」が押しだした人達がここには食い込んでます。「青年向けマンガ誌」というのを前面に謳った成果ではあったと思います。当時少年誌の石森章太郎しか知らなかった私は、性的描写もある氏の青年マンガをこの全集で初めて読んで、けっこうショックだった覚えがあります。
サンペイさんの話に戻して、センスだけでなく氏の描線の硬質さも私は好きでした。これは個人の嗜好なので好みは分かれると思いますが、自分の線もカッチリしていて、オットー・ソグローとか好きだったので……。直接お目にかかったのは文春漫画賞をいただいたとき。審査員のお歴々は早々と銀座に流れていかれたのであまりお話は出来ませんでしたが。
ご冥福をお祈り致します。
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