最初に氏のお名前を知ったのは「少年画報」に連載された『しびれのスカタン』で、たぶん連載第1回目から読んでいる。写真は同誌の付録マンガ(当時の月刊マンガ誌は付録の多さを競っていて、なかでも「少年画報」はそれが圧倒的だった。付録マンガも本誌に連載してる作家がさらに別の読み切りを描いていたりして、さぞや執筆状況は過酷であったろうと思う)。
表紙の赤鉛筆による落描きは当時2歳くらいの妹によるもの。『おそ松くん』のキャラは実は描いてみるとどれもむずかしいのだが、単純な幾何学図形で構成されているスカタンの顔は簡単で、よく描いていたのを憶えている。注目していただきたいのは作者クレジット。「赤塚不二夫・作 長谷邦夫・え」となっている。
実際には長谷さんがほとんど一人で考えて描いていたと思われるが、当時の『おそ松くん』人気はものすごく、本誌のクレジットでも下手すると赤塚さんの名前のほうが大きく喧伝されていた(一時期の監督名より「スピルバーグ製作」というコピーのほうが大きかった映画ポスターみたいなものだ)。小2とはいえマンガ読者的にはませていたので、これには当時からなんとなく違和感を覚えた。つまり、長谷さんの名前と作品に出逢った当初から、赤塚さんの影武者的な微妙な立場を感じ取ってしまった、というわけだ。
石森章太郎『トキワ荘物語』より、中央が長谷邦夫 |
その頃はそんなむずかしいことは考えなかったが、自画像というのはマンガ家の自意識の究極の象徴でもある。作品をメタ化してしまう作者の登場は話を壊しかねない危険な表現なのだが、そこをも突き破って自分が出てきてしまうような強い自意識を持つ作家の感性に反応していたのかもしれない(手塚治虫〜石森章太郎〜永井豪〜吾妻ひでお〜ゆうきまさみ……そして今はヤマザキマリさんと、考えてみると僕の好きなマンガ家は本人登場頻度の多い人達ばかりだ)。
長谷邦夫『盗作世界名作全集 巻の3 三銃士』より自画像 |
その中で長谷邦夫さんの自画像や各作家による似顔は非常に特徴的で、僕などはお写真より先に、ご自身や他の作家の作品でウロチョロする「マンガ俳優」として認識していたほどだった。
その小学生ながらのバックステージへの興味で石森章太郎『マンガ家入門』(65年秋田書店)を読み、さらには赤塚不二夫『シェー!!の自叙伝』(66年華書房)を読んだわけだが、後者を赤塚さんのゴーストとして書いていたのも実は長谷邦夫さんだった。この著書の中で、僕は初めて「パロディ」という言葉を覚えるのだが、そのパロディに関する記載(盗作との違いなど)も、今読むとまさしく長谷さんらしい主張ではあったと思う。
赤塚さんのゴースト的な仕事では一時期の『天才バカボン』のメイン・アイディアはもちろん、長谷さん自身が絵も赤塚さん名義で描かれているものが幾つかあるが(唐沢なをきさんも指摘していたように)高井研一郎さんや北見けんいちさんよりもご自身のタッチやアクが強く出てしまい、子供ながらに一目で「これ長谷さんが描いているな」とわかるので、読者としては当惑していたのを覚えている。
70年代以降、赤塚さんはマンガよりもご本人の露出や活動が増えていき、僕も以後の作品のあまりよい読者とはいえなくなっていく。これと反比例して歳相応にサブカルチャーへの興味は増していき、フジオプロのサブカル(当時はそんな言葉はなかったが)部門を一手に担当していた長谷さんの影響を、まだこの時点でも長谷さんがやっているとはあまり認識せずに、僕は大きく受けていくことになる。
表紙は横尾忠則、付録は山下洋輔・中村誠一・古澤良治郎・ 渡辺文男によるソノシート「ペニスゴリラアフリカに現る」 |
ちなみに「マンガNo.1」にはヌードグラビアなども載っていたため、父親に見つかって(父親は当時としてはマンガに理解のある人間だったが)処分されたという負の想い出もある。写真の「マンガNo.1」は後年、古本屋で再入手したもの。
それからだいぶはしょるけれども、SNS時代の走り、mixiを通じて僕は長谷さんとときどきお話しするようになり、2012年のイベントでは、僕が舞台でギターを弾いて「桜三月散歩道」を歌い、セリフ部分の朗読を作詞者である長谷さんにお願いする、ということが実現した。そのときのことは以前のブログに書いたのでご参照下さい(→こちら)。
写真はそのウチアゲのときのもの(右は映画評論家の松島利行さんで、松島さんも今年亡くなられた)。お目にかかっていきなり赤塚さんとのデリケートなお話を訊くのもためらわれたので、このときはその周辺の話題で終わったのだが、それでもディープな裏話をたくさんお話しして下さった。
水声社『パロディ漫画大全』(2002年)にいただいたサイン |
それから一年後、赤塚さんのお話を色々うかがう前に長谷さんは倒れられWEB上の交流も途絶えた。謹んでご冥福をお祈り致します。
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